オタク徒然

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たぶん忘れてたのは 思い出じゃなくて 鍵の在り処だった

幸田もも子『センセイ君主』(2013~2017年、集英社)批判~高卒お嫁さんを生産する“センセイ”~

※このブログはネタバレしかありません。

センセイ君主のネタバレを食らいたくない方はここでブラウザを閉じてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

こんばんは。

ただいまマンガMee(iOS)(Android)というアプリ内にて幸田もも子センセイ君主(2013~2017年、集英社)という作品が全巻無料公開されています。

この作品は5年ほど前から気になっていたので、せっかくなので読んでみました。

ところが読んでみてどっこい、内容のあまりの保守的な価値観でぶったまげました。

この作品は女子高生(バカ)と先生(東大出身)の恋愛模様を描いています。(二人は出会って3ヶ月、第3巻あたりで付き合い始めます)

そしてなんと、この作品。主人公が進路について「あたし先生のお嫁さんになりたいので大学には行きません!」と言い、東大出身であるはずの先生が「フッ……お前はそういう奴だよな」と受け入れ、卒業後2人は結婚し幸せに暮らしました☆みたいなエンドなのです。

え?????????

先生、大学でなにを学んできたの?????????????

生徒に高等教育の大切さを説いてくれ?????????????????????????

という訳で徹底的に批判したいので本ブログを書いております。

 

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・前提

主人公:バカな女子高生。ガッツがとりえ。

先生:東大理Ⅰ、数学修士(※重要)。数学の研究者を夢見るも挫折し嫌々教師になる。

 

それでは早速気になった箇所を挙げていこうと思います。

 

・高卒お嫁さんになる主人公、それを止めない先生

本作で一番気になったのはクライマックスの場面です。以下は高校2年生の主人公が進路票に「先生のお嫁さん♡」と書いて先生に理由を聞かれているシーンです。

「あの やりたいことってつくらなきゃいけないんですか」
「もちろんつくろうと思えばつくれます」

「でもそれは一番にやりたいことではありません」

「だって あたしの夢は先生のお嫁さんです

「そのためにあたしはお料理や家事をお母さまからいっぱい教わりたいです」

「先生との子供だって生みたい」

あたしのもてる時間もエネルギーもぜんぶぜんぶ先生とつくる家庭に注ぎたいです!!」

(前掲『センセイ君主』第12巻「Lesson44」より)

……え???主人公、何年の価値観?????これが掲載されたの、2017年……???にせん、じゅうななねん……???????にせん……?????????????????????????せんきゅうひゃくでもなく…………????????????????????

本当にびっくりしました。2017年に大学行かないでお嫁さんになりたい!って女子高生に言わせるって作者、マジでどんな価値観してんだ?開いた口が塞がりません。っていうか大学に行った後でも子供は全然産めるでしょ?え?子供って20歳までしか産めないんだっけ??

いやでもここで先生(東大出身、数学修士)が高等教育の大切さを説いてくれるんだろうなと私は期待しました。

実際先生は主人公のこの提案に対して一度は「ダメだよ」と却下しています。良かった~。

……しかし、そう思ったのも束の間。

先生が主人公に大学へ行けと言う理由もこれまた酷い。

主人公「それ(高卒先生のお嫁さん)があたしの進路じゃダメなんですか?」

先生「ダメだよ」

主人公「ええっ」

先生「みんなが大学や専門で楽しそうなのをみて後悔したらどうするの?

お前は大学で何を学んできたんか?????????????????????????????????????????????????????????????東大理Ⅰ、数学修士ってところまで設定練られて???????????????????????????????????????????????????

大学を?????????????????????遊ぶ場所だと?????????????????????????思ってらっしゃる?????????????????????????????????????

先生のこの返答には本当にびっくりしました。

私は大学は学ぶ場所だと思っています。大学院には進学しませんが、それでも学部4年間歴史学と真剣に向き合い多くのことを学びました。あまり頭の良くない大学出身の私すら大学の教育には大いに感謝しています。

確かに、大学には毎日サークルだのバイトだの遊び惚けている人種もいます。しかし、それは彼らが怠惰なだけであって、大学とは本来遊びに行く場所ではありません。大学は、こちらが能動的に学ぼうと思えばいくらでも応えてくれる機関です。

東大で学部から院までずっと数学をやっていて研究者の道すら考えていた先生なら、私より一層高等教育の大切さをわかっているはずではないのでしょうか。それなのに、このような「大学を遊ぶ場所だと思っている」発言にはがっかりです。

東大学部→東大院という設定が全くキャラクターの思想に反映されていないと感じました。

 

また、ここでは一応「ダメだよ」と却下した先生ですが、後日主人公のこの進路を受け入れます。

主人公「いいんですか?! あたしの進路」

先生「あと一年ギリキリまで考えた方がいいよって言ったところで、どーせ一年後も変わらないんでしょ?(キメ顔)(胸キュン台詞っぽい)」

主人公「はい!!///」

いやいやキメ顔で受け入れないで?????????????大学進学を説得して??????????????????

「大卒」という肩書が手に入ると未来の選択肢が格段に増えます。例えばこの主人公は高校卒業後すぐ結婚し一度も働かないまま母になります。この家庭でもし先生が暴力を振るうようになったら?主人公が離婚を考えるようになったら?それとも、先生が突然事故で死んだら?家庭を支えなければならないのは主人公になります。

しかし、その主人公は高校卒業後、学歴も職歴も資格も技術もありません。そんな主人公が就活したところで、家庭を支えられるほどの収入が得られることは無いでしょう。良くてパートに受かる程度です。これでは経済的に離婚はとてもじゃないけど出来ません。もし先生に暴力を振るわれたら耐えるしかありません。先生が働けなくなった場合は一家で路頭に迷うしかありません。

先生はそのリスクを考えているんですかね。生徒が大学に行くかどうか悩んでいれば(家庭的、金銭的な問題が無ければ)とりあえず大学に行くのを勧めるのが教師の務めだと思うのですが。

先ほど引用箇所で(キメ顔)と書きましたが、恐らく先生は「主人公がオレのことを1年後も好きな絶対的確信がある」という自信があり、それが表情に出ているのだと推察されます。また、このオレが主人公と別れる訳がない主人公はオレさえいれば大丈夫という絶対的な自信があるから主人公の進路に対して肯定的なのでしょう。冷静さに欠いたモラハラって感じでキツイです。

大学へ行く意味はもちろん人によって違います。それでも、大学で一生懸命学んだ4年間は価値のあるものになるはずです。それなのに、大学進学という選択肢のあった主人公を高卒お嫁さんにしてしまった先生は、本当にこれで良いのでしょうか。これは先生が主人公の“未来”や“可能性”を潰しているとも言えます。

結局本当に二人は卒業後即結婚し、その一年後には子供を産みます。いつの時代の幸せ観だよ。

 

・仕事のモチベと恋愛を履き違えている先生

教師をやってよかった

さまるんに出会えてよかった

楽しいと思えたのはお前がいたからだよ

(第10巻「Lesson35」より)

教師舐めとんのか?????????????お前、主人公卒業後に教師モチベ持続できる?????????????????????????????????

個人的に教職を取っていたし塾講もやっていた身なので、こういう発言は本当に看過しがたいです。主人公が先生でいるモチベってなんやねん。主人公が卒業したらどうすんだよ。お前が好きなのは生徒(概念)じゃなくて主人公(個人)じゃねえかこのガバガバ教師が。

そして、私が危惧していたことは実際に訪れます。

そう、先生は主人公卒業の際に教師モチベを失います。

「俺教師やめよっかな」

「なんかやる気がおきないんだよね」

「教師って仕事それなりに面白いって思ってたはずなのになんかやりきったっていうか」

「教師やってて一番楽しい時間はもう終わったのかもしれない」

(第12巻「Lesson44」より)

結局「先生」じゃなくて主人公と恋愛するのが楽しかっただけやないか~~~~~い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

この後主人公に「先生は一生あたしの先生なんです」「先生は先生が思うよりずっと先生がお似合いだと思います」と言われ先生を続けることにしますが、それでどうしてモチベが上がるのか全くわからないし何の根本的解決にもなっていません。

そもそも先生は不登校児の面倒を見るのを嫌がるなど「先生らしくない」ことがアイデンティティであり、主人公以外の生徒と関わっている描写が圧倒的に足りていません。男子生徒には基本的に当たりが強いし、本当に「生徒」ではなく「主人公」のために働いているようなもんです。きっしょ。

 

・主人公を基本的に「バカ」呼ばわりする先生

先生は基本的に主人公をバカ呼ばわりしています。モラハラ過ぎんか?

しかも主人公も「先生だけは一生バカっていってくれていいですからね(第13巻「Last Lesson」より)」ってモラハラを受け入れててア~~~…いやもうこれに関してはお二人が幸せそうなら良いんですけどね…。

 

・「バレたら教師やめればいい。命を懸けてお前を守る」と言いながら教師を続ける先生

バレる前に自主退職するのが誠意ってもんだろ。何ちゃっかり臨時から正職になってんだよ。やめるタイミングいくらでもあっただろ。

 

・超優秀のくせにDC1が取れていない先生

いやこれは超細かい文句なんですけどね。あれだけ作中でDCに触れたり数学の賞の名前出したり調べました感出してる癖に、超優秀設定の先生があっさり25で教師に転職しててびっくりだよ。超優秀ならDC通ってドクター進んでる頃だろ。詰めが甘いんだよな。(それともn浪n留して24,25でもまだDCのシーズンじゃなかったとか?)(超優秀とは)

 

・出会って3ヶ月で在学中の生徒と付き合う先生

そもそも早過ぎんだよ。

 

・主人公と先生の恋を応援する先生の同僚

何教師が生徒×教師の恋愛を応援してんの?正気?職業倫理どうなってんの???

 

・先生の母親に嫁入り修行する主人公

だからいつの時代だよ。付き合う→親に紹介→嫁入り修行→結婚→出産って話の大筋が本当に古過ぎるんだよな。

 

・娘が恋人ですと教師を連れてきてあっさり受け入れる両親

私が親ならその教師文春に売るわ。

 

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とりあえずざっと思い出した文句は以上になります。

2017年にこんな作品が連載していて集英社は良いのでしょうか。

幸田もも子さん自身は大学を中退された(卒業生インタビューvol.28 – 和光学園)そうですが、編集の方などどなたか大学の大切さをわかっている方はいなかったのでしょうか。

また、ジェンダーが専門の友達からは「先生は専業主婦家庭出身だから当たり前に主人公に専業主婦を求めるのでは?」と指摘されました。確かに一理ありそうです。でも結局それって主人公を「人間」じゃなくて「女」として見てるんですよねえ……。

 

また、最後に私は何も高卒はゴミカス!!大卒は最高!!!と言いたい訳ではありません。

この恵まれた家庭に生まれた主人公に「高校卒業後お嫁さんになる」という選択肢を与えた先生が許せないのです。高卒も大卒もそれぞれ生き方があるでしょう。ただ、一度も働かず嫁になるという人生設計が2017年にそぐわないなと思います。

 

センセイ君主がせっかく全巻無料で公開されてるうちに皆さんにも是非目撃していただきたいものです。

 

では、以上で失礼します。